事業承継を重視するポイント

バブル崩壊後の1990年代以降、建設需要の落ち込み、鋼材市況低迷などに加え、薄板工場、新H形鋼工場の建設に伴う償却負担が重なり、長い期間赤字決算が継続しましたが、中国特需による市況上昇、90年代に行った設備投資効果が浸透し、高収益企業として復権しました。
既成概念に囚われず、小が大を制す経営戦略はまさに鉄鋼業界の織田信長と言ったところでしょうか。
To社は2006年になって、大きな転換点を迎えました。
Ik社長は2006年6月で相談役に退き、高松工場長であった45歳のNi社長にバトンタッチされました。
オーナー経営にピリオドが打たれたのです。
同時に同社は向こう10年以上にわたる大プロジェクトを掲げました。
まず、2006年末までに厚板ラインを九州工場内に建設します。
一段の品種多角化を行い、需給変動に備えるのが目的です。
また、同社は、愛知県内に同社の全ての工場敷地を合算してもあまりあるほどの広大な敷地を購入し、新電炉工場の建設を決めました。
これから2010年以降に向けて段階的に工場を立ち上げていくものと見られます。
現段階では、プロセス、品種は決まっていませんが、薄板または特殊鋼を生産し、自動車用鋼材市場をターゲットにする可能性があります。
同社は、ひも付き取引は行ってきませんでしたが、品種だけでなく、商流の多角化によってリスク分散を図る方針です。
店売り市場は変動が大きく一方向に動きがちですが、ひも付き取引は価格が安定的であるためです。
この場合、従来の電炉プロセスでは、清浄鋼の生産は難しく、還元鉄プラントなど新たな技術に挑戦する必要性もあるかもしれません。
中国の供給過剰により、先行きの鋼材市況に関して楽観はできませんが、新分野へのチャレンジが同社のDNAでもあります。
日本は鉄スクラップの輸出大国となっており、現状は多くが輸出され、韓国や中国で現地メーカーによって鉄鋼製品となっています。
国内で発生する資源を有効にリサイクルしていくという意味でも、この大プロジェクトの意義は小さくないでしょう。
Da社は、電炉特殊鋼では国内トップシェア企業です。
1916年にルーツとなる電気製鋼所が設立され、1976年に日本特殊鋼、特殊製鋼を吸収合併し、現社名となりました。
自動車、機械向けの特殊鋼、航空機、船舶向けの高級鍛造品、磁性材料、エレクトロニクス材料、エンジニアリングなど多くの事業を営んでいます。
2005年度の営業利益の構成比は、特殊鋼鋼材が51.6%、自動車・産業機械部品が29.0%、エレクトロニクスが8.0%、エンジニアリング事業が4.5%、新素材が2.7%、流通・サービスが4.2%。
生産拠点では、電炉工場としては世界最大規模の特殊鋼一貫製造工場である知多工場のほか、星崎工場、高級鍛造品を製造する渋川工場などが主力工場となっています。
グループ会社には有力企業が多く、ステンレス鋼線を生産するNi社(:東証1部)、高級特殊鋼を生産するTo社(店頭公開)、Hu社(:東証2部)などは株式市場でもお馴染みの顔ぶれです。
未上場ではありますが、王子製鉄は普通鋼電炉メーカーで比較的競争の少ない平鋼で高収益を稼いでいます。
前述のように日本の特殊鋼市場では、数量面でのシェアは新日識、Ko社など高炉メーカーが優勢です。
ただ、冒頭でも述べたように大規模な高炉から絶えず溶銑の供給を受ける高炉特殊鋼は、上工程と下工程の能力バランスをとるため、特殊鋼の中でも生産が容易な量産品種の構成比が高くなります。
一方、同社は主力の知多工場において電炉を5基有していて、顧客の要望に応じた多品種少量生産を得意としています。
電炉特殊鋼ではありますが、連続鋳造機は垂直型の機械を有していて、介在物を極限まで排除し、清浄鋼の生産を行っています。
圧延工程は多品種少量生産に対応するため、品種ごとの圧延ロールの段取り替えを素早く行うなど、高い生産性を誇っています。
このため、同社の特殊鋼は高炉メーカーとは競合が少ない高級品種の製品構成が高くなっています。
また、渋川で生産している高級鍛造品は、航空機向け、船舶向けで国際シェアが高いという特長を有しています。
多くの乗客の命を預かる航空機部品では、工場のひとつひとつの機器が顧客からの認定を受けますが、同社製品は高い評価を受けています。
日本の特殊鋼業界を取り巻く環境は、普通鋼よりも良好であると見られます。
第1に、日系自動車メーカーが世界的にシェアを拡大していることが大きい点です。
普通鋼の場合、自動車メーカーが海外に立地してしまうと、進出先の国に立地する鉄鋼メーカーから鋼板を調達するため、構造的に日本国内の需要は減少してしまいますが、特殊鋼の場合は、世界のどこに自動車メーカーが立地しても、ノックダウンセット(KDセット)という半製品(資本財)の形で日本の特殊鋼を使用しています。
第2に、海外の特殊鋼に比べて日本の製品の品質に圧倒的な優位性があるためです。
日本の特殊鋼は、鋼材の造り込みに注意を払い、内質の改善に徹底的にこだわっています。
また、いくつもの検査ラインを経ており、品質にとって致命傷となる外傷などのチェックを怠っていません。
さらに、多くの日本製品は小型化、無騒音化などさまざまな性能を発揮します。
海外メーカーが現地調達の特殊鋼を使用すると、さまざまな加工コストが必要なうえ、性能が要求に追いついてこないケースが多いのです。
このため、自動車メーカーの世界市場での生産増加は、日本の特殊鋼需要にストレートに反映します。
Da社の場合、Ho社、Ni自動車向けの納入シェアが高くなっています。
Ho社は国内に加えて、米国での新工場建設を決定しており、中長期的にも特殊鋼需要は堅調に推移しそうです。
また、航空機、船舶などの需要も活発であり、中長期的に収益拡大をサポートする可能性があります。
2006年3月、同社は06年度を初年度として08年度を最終年度とする中期経営計画を発表しました。
需要増加が継続していますが、需給悪化につながる電炉増設などは行わず、既存設備の生産性改善によって増産を行っていく方針です。
また、限界利益率の高い品種へのシフトも狙っていきます。
前述の高級鍛造品は、増加する需要に対応して能力拡張を行っています。
1956年、Ni社はHi社の鉄鋼事業が分離してスタートを切りました。
ただ、操業の源流をたどると、1910年、東洋では最初の可鍛鋳鉄製造会社として九州で「To社」を設立したのが、現在の鋳物事業の原点です。
特殊鋼事業の原点は、1926年に、古代から歴史のある「たたら」を源流とする鉄鋼メーカーの買収によってスタートしています。
なお、Hi社はNi社の発行済み株式数の54.1%を保有しています。
主力製品は時代の変遷とともに変化してきましたが、長年、高級特殊鋼事業が同社の屋台骨となってきました。
60年代以降、特殊鋼量産品の市場に高炉各社が次々と参入してきた時点で、同社は量産タイプの特殊鋼からの撤退を決意しました。
木炭と砂鉄による日本古来の製鉄法。
鋳物師が、「たたら」と呼ばれる足踏み式のふいごを用いて炉に送風したことからこの名がつきました。
生み出される良質の鋼は、現在でも国の重要無形文化財である日本刀に活用されています。
そして、市場規模は小さくとも、高シェアが獲得できる分野を狙って製品投入を行ってきました。

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